平成12年度【第6号】
有限会社白瀧屋 代表取締役 川敬祐氏


 真冬の日本から5時間45分、タンソンニャット空港に降り立つと息を吸うのもイヤなほどの気温と湿気が僕を襲った。アジアはほとんど制覇している僕には慣れっこのはずの環境なのだが、さすがに今回は少々キツイ!真冬から真夏の間がたったの5時間足らずなのだから…

 空港もアメリカ軍がベトナム戦争時に使用していたのではないかと思うほど老朽化しているタラップを下りると何の匂いか分からないが熱気と一緒にいきなり鼻に入ってきた、帰国するまでにはこの匂いの素をつきとめなければ…。
 初日の夕食はフレンチ、さすがに元フランス領だけあってバゲットは美味しかった。ディナ-はお世辞にも「美味しい」とは言えないがパンだけは2回も追加してしまった。
 ホテルの周辺を探索してみると観光客用なのか、日本でよく見る「ベーカリー」っぽい店があった。品揃えもまあまあで、我が町のそれとの違いはさほど無い。が、一歩、裏通りに入ると裸のパンを笊に山積みしているではないか!なんだかこの国の奥深さを見た気がした。

 2日目、ホ-チミン市から80kmの所にあるミト市に行くことにした。 ここは大河メコンが「川」と呼ばれる最後の土地である。対岸まで3kmもあると言う。大陸では良くあることだがまるで「海」のようだ。街中の道は一応舗装されているものの、路肩の店の周りは地道である。乾期のせいで埃っぽい。口の中、までもザラザラしそうな中で裸のパンを平然と山積みしている。「異物混入だ」「不衛生だ」と騒ぎ立てているどこかの国の人に見せてあげたい気がした。
 その中でふとした光景が目に飛び込んできた。

 我が国では数十年前に絶滅したであろうオ-ト3輪の運転手がバゲットサンド(長いままの)を頬張っているではないか。「どこかで見た光景だけど…」と考えてみると、それは先日仕事で行った、東京でもお洒落な町の恵比寿だった。宅配便の運転手がカスクード(フィセルサンド)を食べていた。その光景がこの発展途上の国にあるのだ!この国の全ての予算(国家予算)を合わせても東京都の年間予算の何分の一である。何とも変な感じだったが、僕の頭に「この国でパン屋でもやってみようかな」と言う考えが浮かんだのは事実だ。

 昨年、僕の住んでいる大分市で2店舗出店した。メニュ-の7割がハ-ド系と言う品揃えで、ヨーロッパ風の内装、店員は皆コックコ-トに赤のコックタイ、濃いグリ-ンのエプロンという、大分では少々凝ったスタイルで始めたものの1年後には「空き店舗」の看板が掛かっていた次第だ。何とも情けない話だが事実である。

 田舎とは言え日本の県庁所在地である我が町で通用しなかったスタイルが、国民の平均月収が100ドルのこの国で当たり前なのである。私の言いたい事はもうお分かりだと思います。ベトナムのパン事情はここまでなのですが、最後に私の独り言を少し…。

 この記事に目を通していただいている諸先輩方もそうであろうと思いますが私の場合も同じです。多分に洩れずパンを焼く匂いで目が覚め、多分に洩れず焼きたてのパンが食卓に並ぶ、給食のパンケ-スには「白瀧屋のパン」の文字。後継ぎの呪縛から逃れようといろんな仕事をしたものの所詮、餅屋は餅屋、パン屋はパン屋でした。それなら徹底してパン屋になってやろうと腹をくくりました。

 13年度、全青連で給食委員会の仕事を仰せつかりました。皆様ご存知の通り昨年大分市では学給パン、ご飯の異物混入問題で3社が営業停止(正確には学校側の受取拒否)と言う大事になり罰則まで決まった次第です。これを教訓にこれからの学校給食委託業者のあり方、未然に防ぐマニュアルづくり等を模索していきたいと思います。本紙Tomorrowをご覧の皆さんのご意見を参考にさせていただければと思いますので、お気づきの事が御座いましたら是非事務局までお寄せください。お願い致します。結びになりましたが、私の取り留めの無い話に最後まで目を通していただきましてありがとうございました。感謝申し上げます。